社団法人 日本医療福祉建築協会

 近年、建築物の設計者選定において、プロポーザル方式が多用されている。この方式は、特命方式を採れない場合の方式の一つとして登場した方式であり、複数の候補者について過去の業務実績等に加えて若干の技術提案の提示を求め、これらにより最適の設計者を選定しようとするものである。公共建築全般を対象として、その進め方についてのマニュアルも刊行されており、設計案自体を選ぶコンペ(設計競技)方式に比して、普及の度合は年々高くなってきたようである。
しかしながら、近年その実状には改善すべき問題が多々あるとの指摘が出されるようになってきた。参加資格ならびに募集方式が大手事務所中心の指名方式に偏っていること、審査過程において過去の実績が問われる結果として歴史の浅い事務所や規模の大きくない事務所には不利となること、技術提案において図面的な表現が原則的に禁止されていて不自由であること、選考の過程などに不透明なケースが多いこと、などの点である。特に技術提案における図面的表現の禁止は、部門間ならびに室間の機能的関連性の理解の提示が不可欠である医療・福祉施設にとってかなり不都合な 制約となっている。
本協会としては、医療・福祉施設の特性を考慮しつつ、その改善を望む見地から、独自の立場において医療・福祉施設のための設計プロポーザル・ガイドラインを提示するものである。医療・福祉施設について設計者の選定をプロポーザル方式によって行う場合には、本ガイドラインをベースにされることを奨めたい。

1.主旨

本ガイドラインは、社団法人日本医療福祉建築協会が、医療・福祉施設の特性を考慮しつつ、これら施設の設計プロポーザルを行う際の望ましい方法を提案し、その普及をもって施設水準の向上を図ることを目的として定めるものである。すなわち医療・福祉関連のプロジェクトにおける設計者の選定において、候補者に対して基本的な建築構想ならびに関連課題に対する考え方の提示を求めるとともに、過去の設計実績等の資料をも参考資料として求め、それらを総合して「人(設計者) 」の特定に至る筋道、ならびにそれらに関わる原則的な考え方について示すものである。

2.募集方式ならびに応募者資格

設計候補者については、広く叡知を集める意味で極力公募方式としたい。この場合、多くの優れた設計者に参加を促す主旨から応募資格に関する制限は最小限にとどめるものとするが、施設の規模や性格によって応募者について若干の条件をつけることは差し支えない。大規模施設の場合などに、設計監理経験の不足する設計者が選定される可能性を危惧する場合には、実務経験豊かな建築家等との共同を求める条項を整備することなどによって対処するものとする。JV方式を採ることも差し支えない。
指名方式を採る場合には、指名者の選定についてその妥当性を保つため、審査委員会による審議を経ることが望ましい。

3.募集要項の作成と公示

プロポーザルの企画・運営に当たる事務局は、対象となるプロジェクトに係る基本計画等に基づいて与条件を整理し、必要とする準備作業を進めるとともに審査委員会を立ち上げ、技術提案の課題を決定した上で募集要項を作成し公示する。なお、その際設計者の選定を終えるまでの日程を明示することが望ましい。また、要項の配布・質疑応答等についてはインターネットを活用するなどして、応募者の負担減を考慮する。

4.技術提案の課題と提出形態等

技術提案の課題は、敷地に対する配置計画ならびに施設の全体計画を必須とし、必要に応じて若干のテーマをこれに加えるものとする。提出形態は審査時ならびに公表展示時の便から、原則として用紙1枚とし、この中に複数の課題に対する回答を自由なバランスで、また自由な表現で提示する形が望ましい。用紙の大きさは大規模施設の場合A1判、中小規模の場合A2判が適当であろう。

5.技術提案以外の提出資料

主として実施設計・監理業務の遂行能力を知るために、審査の参考資料として以下の資料の提出を求める。
1級建築士事務所登録書、会社概要(受賞歴を含む) 、総括担当者等の業務経歴書、総括担当者の代表作品の概要、業務実施態勢、各A4判1枚程度

6.審査委員会

審査委員会は、管理・運営系ならびに建築系とも外部の専門家を加え、原則として数名程度で構成する。委員長には見識豊かな外部の建築専門家を当てることが望ましい。委員会は、募集要項の決定、質疑応答、応募者の提案内容等の審査までを一貫して行うのを原則とする。

7.審査

審査は2段階を原則とする。応募者の医療・福祉施設についての姿勢・知識を知り、課題に対しての考え方・理解の程度を評価することを目的として、提出された技術提案書により提案内容の評価を行い、これによって数者までの絞り込みを行う。第二段階は、この数者についてヒアリングを行い、技術提案に関する補足説明のほか、第5項に示した参考資料によって業務の実施態勢や担当者のこれまでの業務実績などについての説明を受け、質疑応答を十分に行う。
審査委員会は、以上を総合して当該プロジェクトに対して最も適当と考えられる設計者を選定する。ただし、委員会が第一段階の審査を終える段階において、ヒアリングを行うまでもないと認めた場合には、第二段階を省略してもよい。

8.公開

選定の公正を保証するため、募集時においては募集要項内での審査委員名の公表を、審査終了後には審査経過・審査結果・選定理由ならびに優秀技術提案(第2段階に残った案)の公表を行う。優秀技術提案等の公表は、関係者のみならず一般人の施設への関心を高めるだけでなく、応募者全員の技量向上に資することになるので、多くの人々の目に触れる場において一定期間展示されることが望ましい。
ただしプロジェクトの実施段階において、他の応募者のアイディアの無神経な盗用は、著作権に関わることなので避けなければならない。

9.参加報酬等

プロポーザルは、提示する課題に対して知的作業を通しての提案を求める行為でもあるから、公募方式の場合でも、少なくとも優秀技術提案の提出者に対して一定の参加報酬が用意されることが望ましい。また指名方式を採る場合には、発注者の意向による指名である以上、十分な報酬が用意されなければならない。
発注者はまた、外部から招く審査員や専門家に対して、重い責任に見合う報酬を支払わなければならない。